パパ1年生が移住者の先輩パパとおしゃべり 南相馬市での子育てを通して見えてきたこと

パパ1年生が移住者の先輩パパとおしゃべり 南相馬市での子育てを通して見えてきたこと

左:黒川さん、右:渡部さん

黒川 康敬  さん(43)
くろかわ・やすのり

2021年〜 南相馬市原町区在住

茨城県ひたちなか市生まれ
【33歳】東京都内で結婚し、近郊で何度か転居→【39歳】アメリカ・テキサス州ダラス→【41歳】南相馬市に移住→【現在】妻、小学3年生と1年生の子どもと4人暮らし

プロテスタント牧師・宣教師 / グラフィック・ウェブデザイン事務所経営

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渡部 尚紘  さん(32)
わたなべ・なおひろ

2022年〜南相馬市小高区在住

福島県南相馬市生まれ
【18歳】大学進学を機に、神奈川県藤沢市へ→【25歳】宮城県仙台市→【31歳】南相馬市にUターン→【現在】妻、1歳の子どもと3人暮らし

Web関連サービスのディレクション・営業、シェアオフィス運営サポートなど

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これまで何の縁もなかった南相馬市に、宣教師としてやってきた黒川さん。関東近郊とアメリカで育った娘2人を伴っての移住で、どんなことを感じているのでしょうか。対談相手は、南相馬で生まれ育った新米パパの渡部さん。ふるさとを離れての生活を経てUターンし、親目線で南相馬に向き合ってみると、また違った景色が見えてきているようです。仕事の内容や父親歴も異なる2人が、共にお気に入りの遊び場、小高区にある「NIKOパーク」で、子育てについてざっくばらんにおしゃべりしました。

 

対談の様子

南相馬での暮らしは、子どもにどう映る?

 

渡部さん:
今日はよろしくお願いします。顔見知りではありますが、ちゃんと話すのは初めてですね。黒川さんは子育ての先輩でもあるので、いろいろと聞きたいこともあるんです。

まず、僕の経験から心配していることなんですが、いつか「南相馬みたいな田舎は嫌だ」って子どもに言われた時になんて答えようかなって考えることがあるんです。暮らす場所を選択した親として、ちゃんと考えておきたい。自分自身が南相馬出身で、人との距離が近いところや運命共同体みたいな感覚に反発して、都会に出たかったので。

 

黒川さん:
そうなんですね。僕は逆に地元志向だったんですよ。いわゆるマイルドヤンキーっていうのかな。運命共同体だって、そっちの方が幸せじゃんって。

今、うちの子どもたちは小3と小1なんですけど、南相馬に2年暮らして、ここをとても気に入ってますね。新しく出会った友達もいて、いい交友関係があるみたい。ただ、いつも言ってるのは「世界中どこに行ってもいいんだよ」ってこと。ここに来る直前はアメリカにいたし、地球は広いっていう感覚は、普段から持っていてほしいです。

あと、我が家では、18歳になったら家を出て独立する約束をしてるんです。 そうでなくても、ここでは高校卒業したら一度はまちを出ていく人が多いのかなとは思いますが。下の子が18歳になったら、また僕ら夫婦は旅に出る可能性もある。だけど、現時点では子どもたちが高校を卒業する約10年後くらいまでは、ここにいたいなって思うくらいには気に入っていますね。

 

渡部さん:
なるほど。縛り付けない前提がいいですね。

 

黒川さん:
子どもたちからは「私たちが家を出てもここを残しておいてね」って発言も出てきていて、彼女たちのなかで、ここが地元になっているんだと感じますね。

僕は東京やアメリカなどさまざまな場所で暮らしてきました。各地でいろいろな子どもを見てきましたが、南相馬の子は穏やかな子が多い印象があります。僕の個人的な見解ではありますが、おじいちゃんおばあちゃんが近くにいる子が多かったり、地域で見守る雰囲気があったりする状況が、安心感につながっているんじゃないかな。

対談の様子
対談の様子

パパの育休支援も活用して、家族と地域と「みんな」で子育て

 

渡部さん:
そもそも、黒川さんは南相馬とはなにも縁がないところから、今に至るんですよね。

 

黒川さん:
そうなんです。アメリカの神学校を卒業するときに、こちらに来ることを決めて。それから、いろいろと調べたら支援制度がいろいろあって。支援金や住宅購入時の補助も受けることができて、ありがたい限りです。

僕らは運良くいい物件に巡りあえましたけど、意外と南相馬市は住宅費が高いので、住まい探しに苦労している人は多いんじゃないかな。

 

渡部さん:
周りに誰も知り合いがいない状態だったと思うのですが、子育てで頼りにしている存在はいますか。

 

黒川さん:
僕の場合は妻です。 妻も自分も、子育てにおいて自分の家族に頼るのはなかなか厳しい状況です。そうでなくても、子育て方法も教育も、時代によってどんどん変わっていく。僕ら夫婦はお手本もないから、結構勉強してます。めっちゃ本も読むし、話し合いもします。

それに子育てって正解がない。僕も兄と全然違ったし、うちの長女と次女も全然性格が違いますからね(笑)。それぞれによかれと思ってやっても、トライ&エラーの繰り返しですね。うまくいかないことの方が多い。いずれにしても、夫婦の協力が1番大事。 

 

渡部さん:
うちの子はまだ1歳だから、これからトライ&エラーが起きてくるのかな。

 

黒川さん:
きっと、いっぱい起こるよ(笑)。でも、僕は子育てが楽しいですね。

 

渡部さん:
いいですね。なんでこんな質問をしたかというと、同世代で少し先に子育てを始めた友人が市内にいて、彼らがいたから安心して南相馬に来られた気がするんですね。彼らのような存在がいてくれることって大事だなと思って。

その友人が1年間の育休を取っていて「絶対取ったほうがいいよ」って言ってくれたから、3ヶ月の育休を取ることにしました。

とはいえ、育休期間中は、時が止まったような、この時間は何だろう? って変な感覚になってしまったんですね。一番辛かったのは子どもが生まれて1ヶ月が過ぎた頃。用事があって出かけたんだけど、ふと「いっぱいいっぱいになっている」と気づいて。そういうときに話せる相手がいたり、育児からいったん離れたりするのも大事だなと思いました。

 

黒川さん:
一番最初が大変だよね。保育園、幼稚園、小学校ってなると、どんどん手を離れていくから。

 

渡部さん:
今、うちの子は保育園に通っていて、とてもありがたいです。安心して預けられる場所がないことは、考えられないですね。

 

黒川さん:
僕も子育てしてきたからわかる。子育て上手な親だったらいいのかもしれないけど、ママもパパもそういう人たちばっかりじゃない。

 

渡部さん:
僕は子育てに苦手意識があったので、育休を取って子育てのスタートを妻と一緒に切れたのは良かったと思います。そうでなければ、ずっと置いてきぼりで「父親の役割」というよりは、アルバイト感覚で向き合う感じになっていたと思う。

南相馬市で取り組んでいる「はぐパパ(注意)」の制度は、育休を取るのを後押ししてくれたし、何より会社に育休を申請しやすくする意味でも有意義です。

 

(注意)はぐパパ応援育休取得促進奨励金…市内在住で7日以上の連続した育児休業取得者に対して、奨励金が支払われる制度(要件を満たす必要があります)。企業側への支援もあり、両輪で「パパの育休」を支える制度が揃っています。

対談の様子
対談の様子

家族が増えて変わったこと

 

渡部さん:
妻がほとんどやってくれているんですけど……僕は主にお風呂に入れるのと、遊び担当ですね。どうしても子どもは「ママ、ママ!」なので寂しくって、遊び相手として好かれておきたいぞと(笑)。黒川さんちはどうですか。

 

黒川さん:
うちは、妻が主に家事全般担当で、僕は学校行事担当。送り迎えやPTA、他のママさんとのコミュニケーションなどをやっています。そこに、子どもが大きくなってきたので、お手伝いが加わってきました。夫婦チームだったのが、子どもも加わったワンチームになっていく感じかな。正直にいえば大人だけでやってしまえば早いこともあるんだけど、そこはうまく子どもを導いてあげたいですね。

結婚して2人になって、子どもを授かって、どんどん自分ひとりの人生じゃなくなりました。1人でできないことも2人、3人、4人だから実現できるようになったりするんですよね。だから、家族でこれからやってみたいこともたくさんあるし、未来へのワクワク感はありますね。

でも、たまには1人の時間も必要。僕は家族と過ごす時間が好きだし、苦にならないタイプ。でも、妻への僕からのプレゼントは「1人の時間」。子ども2人を僕が連れて出かけると、喜んでくれますね。

渡部さんは、子どもを授かったことで変化ってありましたか。

 

渡部さん:
ありますね。なんて言ったらいいか難しいですけど、全く周りを気にしなくなりました。自分が満たされてる状態になっているから、何も欲さないんですよ。

 

黒川さん:
それまでは周りを結構気にしてたんですか。

 

渡部さん:
そうですね。でも、今はその感覚がほぼない。育児や家事をそんなにやっているわけではないと思うし、すごく張り切って親の役割を果たしているかといったらそうではないけど……目の前の子どもは自分が存在していないと生きていけない。そう思うと、自分の存在意義を感じるし、幸福を感じるのは大きいですね。

うーん、言葉にするのは難しいけど、幸せになりました。

 

黒川さん:
今まで以上に幸せになったんだね。それはよかった。子どもと生活するって大変なことも多いから、幸せじゃなくなっていく人たちもいますからね。

将来の夢

 

黒川さん:
今、すごくいい状態にいるんですね。そんな渡部さんに、将来の夢ってありますか。実は、僕はディズニーのキャストになりたいんですよ(笑)。半分ネタだけど、半分本気。サービス業の究極っていうのかな。今は自分ありきじゃない人生で、仕事も子育ても精一杯やっていきたいですが、いつか史上最高齢のジャングルクルーズの船長になるのを目指しています。言っていれば叶うかもしれないからね。夢の世界をつくる一員になるのに憧れています。

 

渡部さん:
僕はそういう夢とは違うんですが……今が充実していて不安がないのもあるんですけど、ずっと南相馬で楽しく生きていきたい。いろんな人に出会うけど、僕にとっての幸せそうな人って、結局地元に根を張って生きている人たち。毎週末仲間とバーベキューして、「地元最高」って言ってたら、かっこいい。「ワークライフバランス」という言葉以前に、家族や友達を大切にして暮らす価値観があるんだよな、と。

 

黒川さん:
僕は、都心でサラリーマンやってたことありますけど、その頃は、最新情報に触れてカツカツながらも高層マンションに住む、みたいな憧れがありました。でも、南相馬に移住者として来てから、ゆったり暮らしている実感があります。

地元の人からしたら外の人間なんだけど、PTA、スポーツ少年団、いろいろな仕事……ここでは、どこにでも自然となじんでいけたんです。 特に南相馬がフレンドリーな気質だからかなとは思ってるんですけど、なんだか全体的にウェルカムな雰囲気。

 

渡部さん:
黒川さんの話を聞いてると、僕よりいろんな人とつながっていそうです(笑)。

 

黒川さん:
そうかな(笑)。 まあ女子ミニバス少年団のコーチもやらせてもらったり、泳げないのにサーフィンを始めたり、南相馬に暮らしてから予想外に楽しいことがたくさん起こっている。みんな優しいし、こういう環境で子育てできているのは、本当にありがたいことだと感じていますね。

対談後の様子
対談後の様子

大変なことも多い子育ての時期に奮闘する親たちは、ままならない子どもたちと向き合い続けて、孤独を感じてしまうことも少なくないかもしれません。だからこそ、いろんな「味方」がまちにいると心強いなあと思います。
渡部さんの心の支えになった信頼のおける友人はもちろん、NIKOパークのような遊び場や学校であいさつをし合う保護者だって小さな味方なはず。そして行政も応援しているのだから、どんどん頼ったらいいのです。
南相馬で子育てする同士、楽しい雑談も弱音も分かち合った時間のあとは、2人とも清々しい表情でした。せっかく遊び場もたくさんある市内。あちこちで、パパの交流がもっともっと盛んになってほしいです。

NIKOパーク外観

NIKOパーク
福島県南相馬市小高区関場一丁目1番地

2021年にオープンした、こどもたちがのびのびと遊べる屋内型の遊び場です。0歳~小学生までを対象とした遊具をそれぞれ配置し、年齢毎に遊ぶエリアを分けているので、見守る保護者の方にも安心。施設には、めいっぱい体を動かせる「動」の遊び場と、読書やおもちゃ遊びができる「静」の遊び場があります。こどもたちの遊びをサポートするプレイリーダーが常駐しているほか、定例イベントや季節ごとのイベントも開催しています。


テキスト:小野民 / 写真:鈴木穣蔵

この記事に関するお問い合わせ先

商工観光部 移住定住課


〒975-8686
福島県南相馬市原町区本町二丁目27(北庁舎1階)


直通電話:0244-24-5269
ファクス:0244-23-7420
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更新日:2024年02月26日