移住先の話し相手は利用者さんたち 介護の仕事を通して地域に根付く

利用者さんと話をする増田さん

移住先の話し相手は利用者さんたち 介護の仕事を通して地域に根付く

 

増田 一さん(29)

ますだ・はじめ

 

2017年秋〜 南相馬市原町区在住

 

東京都文京区生まれ

(22歳):大学卒業後、東京都内の訪問介護事業所に勤める →(25歳):妻の実家がある南相馬市原町区へ

 

介護職員

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南相馬福祉会は、特別養護老人ホームや在宅福祉サービス事業所など、全12事業所を運営している南相馬市の地域福祉を担う社会福祉法人です。特別養護老人ホーム福寿園の介護職員として、てきぱきとムードメーカーの顔も覗かせながら働いているのが、今回お話を聞く増田一さん。5年前、縁あって南相馬市にやってきました。移住前も移住後も続けている介護職について、照れながらも「天職」と話します。移住後に父親にもなった増田さんの、仕事と暮らしについて聞きました。

移住のきっかけを語る増田さん

工学部から介護職に就職 進路は素直に気持ちが向く方へ

 

Q1. 移住する前はどんな働き方、暮らし方をしていたんですか?

 

A.

東京では、訪問介護の仕事をしていました。

 

22歳で進路を考えているときに、ちょうど介護と虐待についてテレビで特集していました。僕は、母親や父親にもし介護が必要になったとき、ある程度自分でも世話がしたい。それなら、知識をつけておきたいから介護の仕事もいいなぁと、あとは、介護職なら、どこへ行っても臨機応変に対応できそうだと考えたんです。

 

当時大学の工学部に在籍していて、普通だったら就職先の候補は、エンジニアとか(笑)。本格的に就職活動をしていた時、高校を卒業してすぐに介護職に就いていた友人から連絡があり、「今、人手が足りないから来てみない?」って誘ってくれたので、そのまま二つ返事で就職を決めました。

 

就職したのは訪問介護の会社で、3年ほど働きました。車の免許を持っていなかったので、朝から晩まで自転車に乗って、1日30〜40kmくらい走ってたと思います。自転車で1時間往復は普通でしたけど、今思えば、ここ(南相馬市原町区)から鹿島区まで往復する感じですよね。でも、すごくやりがいがありました。

 

東京で働いている頃の利用者さんが、僕のことを紹介するときに『この子は私の孫だから』って言って下さったときにものすごく感動して。ずっと心の支えになってますね。

 

ご家族から「大変お世話になりました」って言われるのも嬉しいですが、本人から言われると、すごく励みになります。それは東京にいたときも今も変わりません。

南相馬市での日常を語る増田さん

場所に囚われない仕事は 移住のハードルを下げてくれる

 

Q2. 南相馬市へ移住した理由は何ですか?

 

A.

妻との結婚のタイミングでした。

 

妻とは趣味を通じて知り合って、結婚を前提として付き合ってたんです。それで一時期は東京で一緒に暮らしていたんですが、彼女はあまり東京の空気になじめない様子だったんです。1年くらいで「南相馬市に帰りたい」と相談を受けました。

 

当時、東日本大震災からはすでに5〜6年は経っていましたが、僕にとって南相馬市のイメージはやっぱり震災であり被災地。とはいえ、そんなにネガティブなことは考えなくて、「じゃあ結婚して、一緒に行きましょうか」って。2017年の秋、25歳の時でした。

 

住む場所が変わっても、仕事は迷わず介護職と決めていました。福寿園にも訪問介護事業所はありましたが、南相馬市に来て運転免許をとったばかりで慣れない運転に不安があったので、特別養護老人ホームの求人に応募しました。実際に働き出したのは、2018年の1月だから、今(取材時)でちょうど丸4年は経ちましたね。

 

実際に暮らしてみて驚いたのは、24時間営業じゃないコンビニがあることですね(笑)。あとは、映画を観るのが好きなので、映画館がないのが寂しいです。まぁ、でもおかげさまで生活リズムは正しくなって健康にはなったかな。

 

実家は東京で、幼稚園の遠足で皇居に行くような立地だったし、働いていたのも都内でしたから、いわゆる都会暮らしが長い。ただ、父親が転勤族だったので、広島県と愛知県でも暮らしたことがあり、がらりと環境が変わることにはあまり抵抗はありませんでした。南相馬市に移り住むことも同じような感覚で、いつも、なんとかなるだろうって考えが根底にはあるんです。

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Q3. 南相馬市での暮らしはどうですか?

 

A.

妻も別の介護施設で働いているので、お互いの仕事を理解できているのも暮らしやすさのひとつの要素かもしれません。仕事の話をすることはほとんどありませんが、「帰りが遅くなることもある」とか、施設で起こることや事情の想像がつくので、家事や育児もフォローし合えます。妻のことは、利用者さんたちに話すときには「宇宙一かわいい妻」と言ってるんですよ(笑)。

 

早く帰れるときや休日の夕ごはんは、僕が担当するようにしています。今日も昼休みにLINEでメニューの相談をしていました。3歳になる息子のお迎えは妻の実家にも頼りながらやっていますね。息子を寝かせた後には、夫婦で映画を観たりゲームをしたりする時間もとれるので、息抜きの時間もちゃんとあります。

 

子育て環境に関しては、広々とした公園がたくさんあってすごく気に入っています。屋内で遊べる場所も充実していますよね。妻と休みが合ったら子どもを連れて出かけるのも、市内外あちこちの公園が多いです。

取材当日はもちつきの日でした
利用者さんとふれあう増田さん

その土地特有の介護がある 経験と知識を蓄えて、仕事をさらに充実させたい

 

Q4. 南相馬市での介護の仕事はどうですか?

 

A.

福寿園で働くのも5年目になって、なじんだなぁと思います。新しく入った利用者さんだと、僕を地元の人だと思うみたいです。方言がだんだんうつってきていますしね。

 

実はこっちで働くときに少し不安だったのは、方言がわかるかな? ってことでした。でも、全然大丈夫でした。みなさん気さくで話しかけやすいし、話しかけてくれる。今ではつい楽しくて話し込んじゃって、うるさいって言われるくらいです(笑)。

 

どうしても全く新しい場所で暮らすときには、周りに話し相手がいない状況に陥りやすいと思います。だけど、利用者さんが話し相手になってくれる良さがこの仕事にはあります。僕が話すのは、ニュースや夕ごはんの話など、他愛もない話です。

 

東京で訪問介護の仕事をしているときは、利用者さんから「こうしてほしい」と意思表示をされる場合が多かったんです。でも、特別養護老人ホームでは、意思疎通が難しい方もいるので、「どうしたいのかな?」と考えることが多くなりました。大変といえば大変ですが、そうやって適切な介護が何かを考えるのは楽しくもあります。

 

あとは、福寿園の利用者さんは、農家の人、ずっと働きづめだった人が多い。そのため「これくらいは自分でできる」と介護を受けるのに抵抗感がある人もいます。だから手を出しすぎてはいけない部分もあるし、バランスには気をつけています。

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Q5. これからの夢や目標を教えてください。

 

A.

近い目標としては、介護福祉士の資格を取りたいです。周りからも驚かれるんですが、移住などなんやかんやに奔走していて、後回しになってしまっていました。経験年数はクリアしているので、試験に備えて勉強しなくては。

 

資格の勉強をして得た知識が、実践に役立ちそうだとも思うんです。福寿園で働いてから、認知症の方と関わる機会が多くなって、最初は苦手意識もありました。今は経験則で苦手意識は克服していますが、ここに知識が加われば、また違った視点で認知症の方たちとも関われるかもしれない。

 

資格はひとつのきっかけですが、土台を固めて、大好きな介護の仕事を続けていきたいです。

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【ある早番勤務日のスケジュール】

6:00    起床・朝食

7:00    勤務開始

12:30   1時間の昼食休憩

16:00   勤務終了。買い出しなど

17:00 帰宅し、夕食準備

18:00 妻子帰宅後、揃って夕食

19:00   入浴

20:00 子ども就寝

20:30 映画鑑賞やゲームなど趣味の時間

01:00 就寝

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増田さんの職場、福寿園での1枚

取材日はちょうど新年の餅つきの日。大きな掛け声がかかる輪の中で、元気に杵で餅をつく増田さんの姿がありました。移住というと、新たにいちから人間関係を築くことに、不安を感じる人もいるでしょう。きっと、人とのつながりをつくる方法は人それぞれ。増田さんは、大好きな「仕事」を通して、暮らしを豊かにし、地域になじんでいった様子が印象的でした。

テキスト:小野民 / 写真:鈴木宇宙

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更新日:2022年03月01日