自分の気持ちにとことん向き合って たどり着いた、故郷で農業をする選択

インタビューに答える武田さん

自分の気持ちにとことん向き合ってたどり着いた、故郷で農業をする選択

武田 幸彦  さん(35)

たけだ・ゆきひこ

2016年〜 南相馬市鹿島区在住

 

南相馬市鹿島区生まれ

(18歳):進学で神奈川県へ。食品について学ぶ→ (23歳):アメリカワシントン州にて農業研修→(24歳):群馬県の農業商社にて営業を担当→(28歳)南相馬市に戻り、新規就農

 

武田ファーム代表

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武田ファーム代表の武田幸彦さんは、農家の長男として生まれました。
今は自分の農場を営む武田さんですが、子どものころは農家になることに前向きではなかったそうです。高校卒業後は実家から逃れるように、関東の大学へ進学。しかし、学生時代の学びをきっかけに、自分の意思で就農する道へ歩み始めました。

高校生からの質問に答える武田さん

農家は嫌と思っていたけれど……進学先での気づきと、アメリカへの渡航

Q1. 農業への思いは、どのように変化していったんでしょうか?


A.
子どものころは農家になりたいと思っていなくて、サラリーマンに憧れていました。自分の誕生日がある5月が、田植えで忙しい時期なんです。お祝いがさらっと済まされてしまったり、ゴールデンウィークで友達は出かけているのにどこにも行けなかったりして、いやだなと思っていました。


高校卒業後は、関東圏で暮らしてみたい気持ちもあり、神奈川の大学に進学しました。両親には農業をやってほしい思いがあったので、説得する理由づけで、農業に関する学部を選び受験しました。でも、高3の夏までは部活に打ち込む毎日で、進学する考えもなく、文系クラスに在籍していたんです。なので、理系科目の受験なしで入学できる学校を探しました。


大学入学と同時に一人暮らしが始まりました。実家から米や野菜を送ってもらっていたのですが、友人と一緒に新米を食べた時に「おいしい」って言ってもらったことがあって。米は米でも、栽培方法や生産地域が異なることで、食べた人が感じる味に違いが出ることに気づきました。


そこから「食べること」への興味が膨らんだんです。大学生時代のアルバイトは4年間ずっと飲食店で働いていて、いろいろなものを食べては「この食べ物は、なぜこんな味がするんだろう」と疑問に浮かんだことを、学校で解決していました。食品添加物や肉の加工品についての授業が特に面白かったです。

 

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Q2.大学卒業後はアメリカへ農業研修にも行かれたそうですね。どんなことをされていたのでしょうか。


A.
大学卒業後、実家に帰って就農する選択肢もありましたけど、まだ帰りたくないのが本音でした。アメリカへ行く道を選んだのも、最初は現実逃避のような気持ちで。


アメリカにいたのは、全部で17カ月。そのうち4カ月はビザ取得の関係で大学に通っていましたが、研修のメインプログラムは現地農場への就農。北海道に似た気候のワシントン州の農場に行きました。そこでは、オーガニックの野菜や果樹を栽培したり、ファーマーズマーケットへ販売に行ったり、農家の一員として働く日々。実家では農作業を手伝ったことがなかったので、人生で初めての農業経験だったんです。コミュニケーションも全て英語で、毎日新しいことに取り組んでいる感覚でしたね。


アメリカでの時間が、農業への関心を高めました。一緒に研修に参加した同期たちの影響が大きいです。日本全国から40名ほどが集まっていたんですが、農業に熱い気持ちを持ってる方ばかりで。研修を共にし、農業の話をするうちに「農業って面白い」と、自分自身で感じるようになっていました。

 

商品出荷の準備をする武田さん

始まりから今までずっとお客様の言葉に支えられて

Q3. アメリカから戻って、南相馬で就農しようとしていた最中に、東日本大震災が起きてしまったんですよね。そのとき、どんな選択をされたんでしょうか。


A.
アメリカから帰るころには、南相馬市に戻り農家になる気持ちが固まっていたんです。でも、震災の影響で、営農再開のめどが立っていなかった。なので、群馬県の農業系の商社へ就職しました。生産者と消費者をつなぐ、物流について学べる会社を選びました。大学で食品に関する知識を、アメリカで農業の経験を積んでいましたが、消費者にモノを届ける物流については、分からないことが多かったんですよ。


入社後は営業を担当していました。スーパーや飲食店、生活協同組合が顧客で、農家こだわりの野菜を取り扱ってもらえないか交渉するのが主な仕事。生産者と顧客の両方に満足してもらえるよう、販売量を調整するのが大変であり、やりがいでもありました。野菜は天候によって出来高が変わるし、買い手側では売れ行きなどの変動がある。作りすぎも、売りすぎも、よくないんです。


Uターンの準備を始めたのは、震災から5年経った頃。原発事故の影響から、作物を生産することは悪いこととされる雰囲気がありました。風評被害をなんとかしたい気持ちはずっとあったんですが、「作ったものを買ってもらえなかったら、生活が成り立たない」という不安も大きくて、なかなか戻れなかったんです。
 

地元へ思いを寄せながら前職の仕事に励んでいました。その時に、顧客の方が「南相馬で野菜を作るなら買うよ」とお声がけくださったんです。この一言に勇気づけられ、南相馬市での生産計画を立て始めました。野菜がたくさん売れる保証はなかったけれど、食べ物は自分で作るし、少なからず買ってくれる人がいれば、死にはしないだろうと思って。直接声をかけてくださった方だけでなく、前職の会社を通して野菜を買ってくれる方は今もいらっしゃるんですよ。

 

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Q4.武田ファームではどんな作物を育てていますか?武田さんの仕事も教えてください。


A.
圃場の広さは、米・麦・野菜全部合わせて40ヘクタールくらいです。育てている野菜の品目は季節に合わせて多品種ですが、年間では20種類くらい育ててるかな。食べてくれる人の需要に合わせていたら、品種が増えました。例えば、カボチャを100トンほしい人ってなかなかいないですよね。少ない量で、トマトやオクラもほしい、みたいなリクエストに応えられるようにしています。


僕の仕事は、野菜づくりのスケジュール管理です。一番新鮮な状態でお客様へ届けることと、従業員が無理なく仕事に取り組める計画立てを大切にしています。多品種の野菜を育てることは、各野菜の収穫時期をずらすことにもつながり、作業を分散させる狙いもあるんです。


風評被害が完全になくなったわけではないけど「食べてくれる人」がいるから、作ることができます。特に、地元の方が「南相馬で育ったものだから買いたい」と言ってくれる喜びはひとしおです。

 

芽きゃべつを収穫する武田さん
武田さんの育てる芽きゃべつ

「農業」で就職できる環境をつくりたい

Q5. 南相馬市で新規就農を考えている方へのメッセージをお願いします。


A.
包み隠さずいうと、ゼロから農業をすることは楽ではないと思っています。よく検討することが大事。栽培に関しては、気候条件や人との関係なども重要なので、就農体験などで何度も足を運んでみるのも、一つのやり方ですよね。市役所の農政課へ相談すれば、育てたい野菜や取り組みたいジャンルに合わせて農家を紹介してもらえますよ。


若手農業者会というものもあり、同じ地域で農業をする人たちと出会う機会にも恵まれています。コロナ禍前は、月に一度、合同で販売会を行ったり、県外の農場へ研修に行ったりして、勉強しながら交流していました。


南相馬市は、新規就農を支援する補助制度も充実しているので、ぜひ調べてみてください。


市内にはロボットの実証実験を行うことができる「福島ロボットテストフィールド」があり、最新の機械を使うチャンスもあります。大型トラクターを購入すれば、1人でも農地拡大に挑戦できるはず。なかなか他の地域ではない規模の支援だと感じています。

 

これからの目標を語る武田さん

Q6. これからの目標を教えてください。


A.
世代や性別に関わらず、就農できる環境をつくりたいです。自分が子どものころは農業に魅力を感じていなかったし、周りの友達も興味を持つ機会がなかったように思います。なので、僕を通して農業を身近に感じてもらえたらと考えています。最近、農家として小学校へ出張授業をしに行く機会があるのですが、僕のことを「ブロッコリーお兄さん」と呼んで親しんでくれる子供もいるんですよ。そういう子たちが将来、農家を就職先に選んでくれたら嬉しいです。


将来的には、武田ファームで雇用を増やしていけたらと思っています。まずは就農体験などで、興味を持った人たちが農業をできるような受け皿になれればと。いつか娘が「就農したい」と言ったとしても、生活していけるような基盤をつくるのが自分の使命です。

 

南相馬のわたしのお気に入り

武田さんの畑

武田ファームの畑

 

自分の作った畑が好きです。四季折々に姿かたちが変わる風景を眺めています。特に、米の収穫時期を迎えて、黄金色に染まる田園風景を見ていると感慨深いですね。一年に一度しか見られないですから。農家だからこそ、好きな野菜が育てられるのも嬉しいです。枝豆や芽キャベツは、自分が食べたくて栽培しています。

 

笑顔の武田さん

大学、アメリカとゆく先々で感じたことから考えを深め、行動につなげてきた武田さん。自分の気持ちと向き合い続けて、地元に戻り、農業を始めた経緯にぐっときます。お客様や家族においしい野菜を届けようと試行錯誤されている武田さんと一緒に農業に取り組めば、真剣に、でも楽しく野菜作りに励めそうです。

テキスト:蒔田志保/写真:鈴木宇宙

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更新日:2023年03月07日