東京から福島へ、想定外のJターン 自分を表現する喜びを、南相馬で体現する

表現からつながる家粒粒での西山さん

東京から福島へ、想定外のJターン 自分を表現する喜びを、南相馬で体現する

西山 里佳  さん(38)

にしやま・りか

2018年4月〜 南相馬市小高区在住

福島県富岡町生まれ

(18歳):専門学校へ進学し、グラフィックデザインを学ぶ → (20歳):東京で、グラフィックデザイナーとして働く→(32歳):いわき市でフリーランスデザイナーとして活動開始→(33歳):南相馬市の起業型地域おこし協力隊のコーディネーターに着任し、小高区へ移住→(35歳):marutt株式会社設立

marutt株式会社 代表取締役

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絵を描くことが好きだった西山里佳さんは、高校生の頃、デザイナーという職業に出合いました。グラフィックデザインを学べる専門学校に進学するため、高校卒業後に上京。さまざまな経験を経て、現在は南相馬市小高区を拠点に活動中です。地方でもクリエイティブの存在を身近に感じられるようにと、社会起業家としても活動する西山さんに、福島に戻ってきた理由や南相馬市での活動について聞きました。

インタビューにこたえる西山さん

一度は離れた地方で デザイナーとして生きる選択

Q1. 南相馬市に移住するまでの経緯を教えてください。

A.
デザインを学ぶ専門学校を卒業以来、ずっとデザインの仕事をしています。一番最初は、百貨店の広報物などを制作していたデザイン事務所に就職したのですが、入社後間もなく憧れのデザイナーに弟子入りする機会に恵まれて、アシスタントとして8年ほど働き、CDジャケットのデザインなどを経験させてもらいました。

その後は、少年ジャンプなどを手がける出版系のデザイン会社に転職。グラフィックデザイナーとして4年ほど勤め、コミックの広告ポスターのデザインなどをよく担当していました。

転職した理由は、アシスタントを務めていたデザイン事務所以外の仕事の仕方を知りたかったからです。デザイナーを目指したときから独立を視野にいれていたのですが、そのためにはさまざまな働き方を知りたいなと思って。いろいろな場所で働いたからこそ、幅広いデザインのスキルも身についたと思います。例えば、CDジャケットは、きれいな写真に一文のコピーを載せるような情報の少ないデザインをすることが多かったけど、コミックの広告では、キャラクターやテキストなど、盛り込む要素がたくさんあって。読んでもらいたい優先順位によって、文字の大きさに変化をつける技術などを学べました。

 

地方でデザインの仕事をすることに意識が向き始めたのは、東日本大震災が起きる少し前から。その後震災があって、地方にいるクリエイターたちがさまざまな活動を立ち上げ始めたんです。それがすごく面白そうにみえて。デザインの仕事は東京でという考えがあって上京したけど、地方でデザインの仕事をしてみたいと思うようになりました。

仕事をする場所を探して、地方のクリエイティブ事情を調べてたどり着いたのは、地元の福島。特に、原発被災地域は新しいまちづくりが進んでいて、それまで福島にはいなかったような人達が新しく入ってきていました。地元であることを差し引いても、これから面白そうなエリアになっていきそうだと感じたんです。

最初は、実家のあるいわき市で活動を開始。仕事があるか不安でしたが、知り合いをつくる機会に恵まれたこともあり、その不安はすぐに解消されました。

 

南相馬市に来たきっかけは、起業型地域おこし協力隊「NextCommonsLab(以下、NCL)」の募集サイトが魅力的だったから。実際に小高に来てみると、原発事故で一度人口がゼロになったところから新しいことをやっていこうという空気感がいいなと思ったんです。それでNCL南相馬への参加を決めて、南相馬市小高区へ移住しました。

「クリエイティブ」を身近にする ふらっと立ち寄れるデザイン事務所

Q2.「社会起業家」とは、どういうことをする人ですか?

A.
社会課題に対して、何らかのビジネスをしている人だと私は考えています。社会課題はさまざまですが、私は地方におけるアートや文化の衰退をデザインの力でどうにかできないかと取り組んでいるところ。都市部と比べて、クリエイティブなものに触れられる機会が少ないのも気になりますね。

デザイナーの仕事も、地方では理解されないことが少なくありません。例えば、私は音楽と絵を描くことが好きだったからデザイナーの仕事にたどり着きましたが、高校生のころは周りにデザイナーがいなくて、職業のイメージはフワっとしていて。親も私が目指す仕事のイメージが湧かないから、就職の説得にも苦労したんです。そういった経験もあり、私が南相馬でデザイナーとして活動することで、デザインへの理解度が上がったり、地元の子どもたちの将来の選択肢を広げたりしたい想いもあります。

 

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Q3. 西山さんの具体的な取り組みを教えてください。

A.
「表現からつながる家『粒粒(つぶつぶ)』」と名付けた事務所を拠点に活動中です。デザイナーも、そうでない人も、ふらっと立ち寄れるデザイン事務所をここ(小高区)につくることで、地方でもデザインやアートに触れる機会をつくりたいんです。

これまでには、参加者から募ったオリジナルのページを自由に製本する「ZINEづくりワークショップ」や、南相馬市外から招いたアーティストと出会える場づくりを実施。デザイナーでなくとも表現してもいいんだって、気づくきっかけになるような企画づくりを意識しています。

昨年10月には、南相馬市内でものづくりをする作家さんたちと一緒に「ひとつぶいち」というマルシェを開催しました。南相馬には、ハンドメイドアクセサリーや焼き菓子などをつくるクリエイターがたくさんいるんです。クリエイターにとっては作品や活動の発表の場になるし、地元の人にも素敵なクリエイターのことをもっと知ってもらえたらなと思って。当日は100名以上のお客さんが来てくれて、とても賑わった1日になりました。

これまでやってきたことを継続しつつ、今後は被災地エリアのアートプロジェクトを手がける人たちとも連携して、企画を考えていきたいです。まずは、気になる地域や取り組みの視察に一緒に行くとか……。アート活動をする人数が少ないからこそ、この地域でアートプロジェクトを手がける人たちには、同じような志があると感じるんですよね。

粒粒で開催されたイベントの様子

Q4.東京にいたころと、仕事の仕方は変わりましたか?

A.
がらりと変わりました。東京にいたころは、雑誌は雑誌、CDはCDといった感じで、制作するものごとにジャンルが分かれていて、デザインが仕事の中心でした。南相馬に来てからは、会社のブランディングから携わって、ロゴやチラシをつくって...…と、関わる部分が増えたのは大きな変化ですね。

私や会社でできることを知ってもらうために、人に会いに行って話をしたり、最近の困りごとを聞いたりするようにもなりました。何ができるか話していると、前例のない仕事の相談がくることもありますが、おかげでできることの幅が広がっています。CDジャケットなどは、全国展開でたくさんの人に見られるデザインを考えていたんですけど、地域性を考えて制作する機会もすごく増えました。

西山さんがデザインを手がける「ぷくぷく醸造」のお酒
日々の暮らしを笑顔で話す西山さん

変化が多い地域で、穏やかに暮らす

Q5. 休日はどんなふうに過ごしていますか?

A.
近隣でやっているイベントに出かけることが多いです。南相馬市内だけでなく、福島市や仙台市でも面白そうなものがあったら足を運んでいます。出かけた街をふらっと歩くことはインプットにもつながるんです。普段の暮らしだけでは、どうしても関心が強いものに興味が偏ってしまったり、情報を選んだりしてしまうことを感じていて。偶然の発見があったり、新しい知見を得られたりするのは仕事にもつながるので、おでかけには積極的です。

あとは、愛猫と家でゴロゴロ、のんびり過ごしてます。

西山さんの愛猫

Q6. 南相馬市に移住を考えている人がいたら、どんな言葉をかけますか?

A.
南相馬は、新しい動きがある刺激的な部分と、穏やかな暮らしのギャップがある地域です。

新しくお店ができたり、移住者が増えたり環境の変化は大きい。視察の人やインターンの大学生など、目の前の仕事をしているだけでは出会えなかったかもしれない人に出会える機会が多いのも、南相馬ならではかもしれません。

一方で、暮らしそのものは本当に穏やか。家の前に広がる田園風景を眺めたり、ご近所のおじちゃんから野菜をもらったり。仕事の忙しさが東京にいる頃と同じだったとしても、生活している実感があるので、気持ちにゆとりを持てているような気がします。

周りがなんといおうと、移住するのは自分。決断できるまでしっかり悩んだのなら、後悔もしないと思います。うまくいかないことがあっても、楽しめるんじゃないかな。自分で自分に責任を持って決めることが大事です。

粒粒の大きな窓から見える自然の風景
南相馬での暮らしの楽しみ方を話す西山さん

南相馬のわたしのお気に入り

cafe' NicoNico-do'(カフェ ニコニコドウ)のケーキ

cafe' NicoNico‐do'(カフェ ニコニコドウ)

鹿島区にあるニコニコドウさんがお気に入りです。アイシングクッキーを使ったホールケーキをはじめ、かわいくておしゃれなお菓子がおいしいです。納屋を改装してつくった店内も素敵なんですよ。「ひとつぶいち」にも出店してくれたのですが、あっという間にお菓子は完売。南相馬市外からもお客さんが来る人気店です。

粒粒の前で笑顔の西山さん

心ときめくデザインのフライヤーや商品パッケージを見ると、ついつい手を伸ばしてしまいます。デザイナーの仕事は、そういった見える部分をつくることが主なのだと思ってましたが、形になるまでに、思考や想いを巡らせていることに改めて気づかされました。西山さんがつくるアートに触れる場が、これからもますます楽しみです。

テキスト:蒔田志保/写真:鈴木宇宙

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更新日:2023年03月23日