進学を機に、ふるさとの魅力を再発見する U25のUターン論
進学を機に、ふるさとの魅力を再発見する U25のUターン論
伊藤 なな さん
いとう・なな
2022年〜南相馬市原町区在住
福島県南相馬市生まれ
【18歳】大学進学を機に、東京都へ→【22歳】新卒入社の勤務地である福島県白河市へ→【23歳】南相馬市にUターン
みなみそうま移住相談窓口「よりみち」コンシェルジュ
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片岡 凉芭 さん
かたおか・すずは
福島県南相馬市生まれ、原町高校2年生
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遠藤 渚 さん
えんどう・なぎさ
福島県大熊町生まれ、原町高校2年生
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多くの人にとって、高校卒業後の進路は大きな選択のひとつ。もうすぐ来るそのときを前にして、高校時代に悩みはつきものです。今回のおしゃべりには、現役の原町高校生の2人が登場。今、彼女たちはふるさとに対してどんな想いを抱いているのでしょうか。数年前に同じ高校を卒業し、現在は南相馬市にUターンして働く伊藤ななさんが、母校を訪ねました。
都会or地方? 専攻と同じくらい大切な「暮らす場所」の選択
伊藤さん:
今日は後輩との対談、楽しみにしていました!どうぞよろしくお願いします。
高校生の2人:
(緊張の面持ちで)よろしくお願いします。
伊藤さん:
久しぶりの高校、すごくなつかしいです。私は大学進学を機に上京しましたが、ふたりはどんな卒業後の進路を思い描いていますか。
遠藤さん:
私は関東の大学に通いたいと考えてるんですけど、都会の暮らしが自分に合うのかが不安です。
片岡さん:
私は、関東か東北か悩んでいます。地域に根ざして課題を解決していくことに興味があって、そういう勉強がしたいです。そうなると、大学を卒業してからも同じ場所に暮らすのかな、なんて考えると余計に悩んじゃいますね。
伊藤さん:
まだ高校2年生なのに、「課題を解決したい」って、かっこいいです。
片岡さん:
地域課題を解決する方法を考える授業があって、興味が出てきました。1つの地域に焦点を当てて行動するっていいな、と思うようになって。
伊藤さん:
私が進路に社会学部を選んだ理由は、実は学部を絞りきれなかったから。高校で先生に相談した時に、社会学部なら幅広く学べると言われたんです。たとえば、教育、貧困問題、福祉……どれも社会のなかで起こっていることだから、社会学部で勉強できることが多いんですよ。
実際に進学してみても、国際社会、日本の地域社会などの選択分野もありました。選択肢が広いという意味で、社会学部はおすすめです。
専攻とは別に、どこに住むかも重要ですよね。遠藤さんは、どうして関東の大学志望なんですか。
遠藤さん:
将来、自分の出身地である大熊町で働くのが夢なんです。だからこそ、学生時代は関東での生活を楽しんでみたい。最近学校の二者面談で、大熊町に「学び舎 ゆめの森」という0歳から15歳までが一緒に学ぶ学校ができたことが話題に挙がりました。それで、ゆめの森で働きたいと思うようになったので、幼稚園教諭と保育士の資格を取りたいです。
伊藤さん:
なるほど。片岡さんも、進学を機に家を出たいと考えてるんですか。
片岡さん:
はい。そう思っています。
伊藤さん:
私は、高校生の頃から広告代理店で働きたかったんです。 このあたりでは該当の会社がないし、東京に集中していると思ったので、自然と東京の大学だなって。正直にいえば、こっちに戻ってくる気はありませんでした。
でも、一度離れたからこそ気づいた地元の魅力がたくさんあったんです。たまに帰省すると、変化を感じることが多くて「新しいお店ができてる」「若者が増えた気がするな」、逆に「ここは閉店しちゃったんだ」とか……。外から見ていて、全体的にいい流れを感じられたことが、私がUターンした大きな理由です。
遠藤さんはまさに、Uターンしたいと思える仕事がふるさとにあるわけだけど、高校生から見て、どんな仕事があったら地元に帰りたいと思うか聞きたいな。私の仕事は、Uターンも含めた移住者を増やすこと。自分がそうだったように、一番のきっかけになるのは、やはり仕事だと思う。私は、やりたい仕事が見つかったからUターンしたんです。
私が仲良くしていた友達でも、南相馬に戻ってきている人は多いんですよ。小中高が一緒で今も遊ぶ子が、原町高校の保健の先生なの。 一般企業に勤めている人をあまり聞かないんだけど、保育園や学校に勤めていたり、市役所にも5人くらい同級生はいますね。
ちなみに「よりみち」のスタッフは、パートと正社員合わせて10人弱ですが、南相馬出身は2人だけ。 あとはみんな、市外からのIターン移住者で、ここで仕事をしたい、そして続けたいと思っている人々です。
片岡さん:
南相馬市は福祉の制度や移住者支援が充実していると思いますが、伊藤さんがUターンしてから、利用しているものはありますか。
伊藤さん:
奨学金返済の支援制度(注意)を利用しています。南相馬市に定住して、市内の事業所で正社員として働いているので、年間18万円まで返済を補助してもらっています。働き始めたばかりの頃は特に奨学金の負担が大きいので、とてもありがたい制度だと思います。
(注意)奨学金返還支援事業補助金…南相馬市内に定住し、市内事業所で正社員として働く方を対象に、年間18万円を上限として奨学金の返還を支援しています(対象となる就職先には要件があります)。
遠くばかり探していたけれど、 地元にあったやりがいのある仕事
遠藤さん:
私は、地域の活性化に協力できるような仕事があったら、Uターンしたいと思います。
片岡さん:
私は、一言でいえば、やりがいを感じられる仕事かな。都会に行けばいろんな職種の仕事があると思いますが、選択肢が多すぎて自分がやりたいことを見つけるのが難しい気もするんです。地方は人が少ないから、一人ひとりが行動しないと何も始まらない。そういう環境で自分が働いて、証のようなものを残したいです。
伊藤さん:
私の職場は、去年の夏にオープンしたばかりで規模は小さいけれど、まさに片岡さんがいう仕事に当てはまっていたんです。
実際に働いていて、課題も多い地域だからこそ、携わりたい首都圏の大学生や、おもしろい人たちが訪れていると感じます。南相馬で働いたり暮らしたりすることを、前向きに考えている人たちが目の前にいる。その人たちと実際におしゃべりできるのは、すごくやりがいがあります。2人の就職先候補としてどうかな(笑)?
片岡さん:
大学生になって、自分がどんなふうに感じるかわからないけど、惹かれるものはあります……!
遠藤さん:
伊藤さんは、大学生の頃から、今の仕事につながるような南相馬市の取り組みに関わっていましたか。
伊藤さん:
大学時代には、何もやってなかったです。だけど、やっておけばよかったとすごく思います。私が学生の頃は、「南相馬に面白い仕事なんてない」とあきらめていて、調べもしなかったんです。よりみちで働くようになって、市内にはインターンを募集している会社もあると知りました。視野を広げて、ちゃんと調べてみればよかったです。
片岡さん:
大学生活では、どんなことをしていましたか。
伊藤さん:
消費者行動論、消費者行動学という分野を専攻していて、内容としては、広告、マーケティング、商品企画などを学んでいました。とても活動的なゼミに入ったので、授業以外の多くの時間をその活動に割いていました。
南相馬に関わる道を探せばよかったということのほかに、もっといろんな人に関わっておけばよかったとも感じています。就職活動をする前に、さまざまな社会人のリアルな価値観や意見を聞いておけば、自分の進みたい道を決める上でも、軸ができるんじゃないかな。振り返るとそう感じます。
いろんな大人と出会って、自分の中の答えを出せればいいですよね。だから、今日みたいな機会に参加するのも、きっとプラスになる。大学のオープンキャンパスと同じだと思います。オープンキャンパスに行けば、いろんな大学が知れるし、比較できるようになる。まずは何事にも出会わないとね。
Iターン、Uターンを増やしていくために 必要なことを若者目線で考える
遠藤さん:
南相馬市の移住促進の仕事では、どんなところをアピールしていますか。
伊藤さん:
私が心がけていることは、南相馬には面白い人、熱量が高い人がたくさん関わっていると伝えていくこと。いざ誰かが移住してくるとなったら、1人で頑張るんじゃなく、地元の人を巻き込んでいくことを目指しています。もともと南相馬市在住の人も、移住者も一緒に盛り上げていけたらいいですよね。
遠藤さん:
南相馬市に足りないのは、どんなところだと思いますか。
伊藤さん:
仕事が限られるというのもあるけれど、仕事はあるのに発信が足りていないと、残念に感じます。例えばロボット関連の企業だとエンジニア職を想像するけれど、意外と経理や事務の仕事を募集していることが、知られていません。事業承継をしたいと考えていても、表立った発信はしていないこともあります。そういう企業と移住を考えている人を、うまくつないでいきたいところですね。
片岡さん:
課題研究で移住関係に取り組んでいて、情報発信って難しいなと感じるんですが、伊藤さんは実際に働いていてどう感じますか。
伊藤さん:
まさに私の仕事は、南相馬市への移住プロモーション。Webサイトをつくって運用したり、InstagramなどのSNSに載せる情報を用意したり、広告を出したり。主にこの3つを担当していますが、答えはないですね。インターネットが普及して20年以上が過ぎて、その間にもどんどん状況は変化していると思います。模索は大変だけど、切り開いていく感じは、私にとってはすごく楽しいです。
とはいえ、実際に来てくれた人の口コミの力が大きかったりもするんです。人が大事なのはいつの時代も変わらないのだと実感します。インターネット上に情報が溢れていて、必要な情報が見つけ出せないことも多いけれど、同じ関心をもった友達と一緒に行動していれば、自然とほしい情報が蓄積されます。
遠藤さん:
大学には、いろんな地域から人が集まりますよね。これまであまり福島と関わりがなかった人ともたくさん話をして、地元について伝えていきたいです。
伊藤さん:
いいですね。さっきも言ったけれど、やっぱり口コミがいいんです。 私も大学時代に、関東出身の友達を何度か福島に連れてきました。 私が誘ったというよりは、地元の魅力を結構話してたんですよ。そうしたら、「行ってみたい」って言われて。「楽しそうに地元のことを話す」は有効ですよ(笑)。
片岡さん:
なるほど。移住促進の情報発信も口コミが強い、というのは考えたことがなかったので、知ることができてよかったです。
遠藤さん:
私は、同じ移住でもIターンの方のお話しか聞いたことがなかったので、伊藤さんのようなUターンした人と話せてよかったです。移住者を増やす、地元を盛り上げるということのためには、いろんな立場の人が力を合わせることが大事なのだとあらためて思いました。
最初こそ緊張していた高校生たちですが、伊藤さんが会話をリードしてくれているうちに、だんだん前のめりになっていきました。先輩後輩対談といっても、年の差は10にも満たず、みんな「若者」。彼女たちが真剣に将来について話す姿は頼もしいものです。
南相馬市や大熊町、相双地域で生まれ育ったからこそ、ふるさとについて考える機会も多かったことでしょう。なかなか出会わない人たちも、機会さえあれば「ふるさと」を共通話題にいろいろおしゃべりできるはず。いろんな世代の声を集め、ときには交わらせていく場を、これからもつくっていけたらいいな、と思いました。
テキスト:小野民 / 写真:鈴木宇宙
更新日:2024年02月26日