お客さんとの関係性のなかで育まれる 自然と足が向くコーヒー屋になりたい
お客さんとの関係性のなかで育まれる 自然と足が向くコーヒー屋になりたい
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青山 春司 さん
あおやま・しゅんじ
2022年〜 南相馬市原町区在住
山形県天童市生まれ
【18歳】:コーヒー店の開業を目指し、調理師免許取得のため大阪へ進学 →【20歳】:仙台市でコーヒー店に就職、2014年に「ロマリアコーヒー」を仙台市内で開店 →【34歳】:2022年に南相馬市へ移住【35歳】:2023年2月に同市原町区で、新生「ロマリアコーヒー」営業をスタート。
コーヒー店 店主
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コーヒー店を営むことは、10代の頃に描いた夢の続き。青山春司さんが仙台で開業した自らの店は、休業期間はありつつも、10年目を迎えました。「ロマリアコーヒー」という、RPGゲームの架空の街の名前を冠した店の現在地は、南相馬市。新天地を求めて探しあてた南相馬市での営業は、予想通りの部分と想定外なことが混じり合っているといいます。「今、いい感じ」とリラックスした表情で語れる理由はどんなところにあるのか。コーヒーをいれてもらいながら、お話を聞きました。
百万都市・仙台での営業をやめ、自然体でできる場所を探して
ーー南相馬市でロマリアコーヒーを始める前のことを教えてください。
青山さん:
ずっと仙台で営業してきましたが、知り合いと一緒に店をやる計画があって、一度自分の店は閉めたんです。でも、新しい店をやり始めて3か月くらいで体調を崩しちゃって、辞めざるをえなくなりました。
半年くらい療養して、これからのことを考えたら、やっぱりコーヒー屋さんをやりたくて。仙台にこだわらなくても、僕たち夫婦の出身地である山形か福島でもやれるんじゃないかと考えるようになりました。どうして妻の実家がある福島県にしたのかって? それは、妻を連れて行くより、僕が彼女のふるさとの近くに行く方が気が楽じゃないですか(笑)。
ーーそう考えられるのは、青山さんが誰とでも打ち解けられる人柄だからこそですね。ところで、仙台でコーヒー店をやってるときは、わりと流行りを意識してやっていたと聞いたのですが……。
青山さん:
そうですね。1人でやっていたり、誰かと一緒にやろうとしたり、模索期だったんです。僕は、自分のやりたいスタイルが明確にあるというより、お客さんに合わせてやりたいタイプ。「自分流」っていうのは、少しずつ滲み出てくるくらいでいいんじゃないかと思います。それでも、経営的に余裕がないと、流行しているようなフルーツどっさりのパフェがあった方がいいのかな、とか繁盛店が気になっちゃうこともあって。
まあ、言ってしまえば迷走してたかな。一時期、どら焼きを焼こうと思って勉強してましたもん。あとになって、周囲の人に「あれ、おかしかったよ」って言われたんですけど(笑)。
ーー今、青山さんのお店のメニューを見ると奇をてらったものはないですよね。どれも定番というか、いい意味で「普通」なのが魅力だと思います。
青山さん:
そうですね。お菓子に対してだけじゃなく、コーヒーに対しても同じで、 あまり大袈裟なことを言いたくない。
いまって、「ストーリーがあるもの」が流行りというか、当たり前になっていますよね。「こういう風な思いがあってできたんです」みたいな。それはそれとしていいんだけど、ロマリアコーヒーでは、そんなことは知らずに飲んでホッとしてもらいたい。
僕が一番嬉しいのは、「なぜか分からないけどおいしい」とか「なんかまた飲みたくなっちゃうんだよね」と言われることなんです。
下見や聞き込みは入念に ここでならと思えた原町の居抜き物件
ーー福島はお連れ合いのふるさととのことですが、福島のなかでも南相馬への移住・開業を決めたのはどうしてですか。
青山さん:
県内全域を車で走って見てまわって、周りにライバルが多すぎないかリサーチしました。あとは、車で走っていると街の雰囲気とか、なんとなく今後こうなっていきそうだなとか感じることもありますよね。20年くらいは続けるイメージも持ちたいなと思っていました。
南相馬は、歴史があってちょっとかたい感じもありましたけれど、便利さもある。往来も結構あって人もいる。そのわりにはコーヒー屋さんは少ない印象がありました。
ーー20年後……かなり先のことも考えているのですね。
青山さん:
そうですね。どんどん新しいことや新しい場所でやっていく人もいるだろうけれど、自分はそういうタイプじゃないというのも、その頃にはだいぶ見えてきましたから。
地元に根を張る商売が向いてるんだろうなとも考えて、この場所を選びました。ここは、元そば屋の居抜き物件で、新しい冷蔵庫など設備が揃っていたのが魅力的。でも、2階まであるし、ひとりでやるには広すぎるのは不安要素でした。
ただ、仙台でやっていた頃より家賃は安いし、なんとかやっていけると判断しました。結果的に、持て余しそうだった2階をレンタルスペースにしてうまくいっているので、よかったです。
ーー物件が決まってからオープンまではどのように進めましたか。
青山さん:
補助金を使っての開店だったのですが、その補助金の締め切りが2022年の8月末でした。住まいは12月に移して、2023年の2月にお店はオープンしました。
改装に関しては、地元の業者さんもすごく協力的で、DIYできる部分を教えてくれて。天井を自分で塗ったり、いろいろと自力でもがんばりました。
基本的にはひとりで切り盛りしていますが、土日は妻も手伝ってくれるので助かっています。あとは、妻の両親が車で1時間くらいの距離に住んでいるので、野菜なんかを持って、よく来てくれるようになりました。この間は大量のふきを持って来てくれたので、妻とひたすら皮剥きをしてました(笑)。同じように持ってきてくれたタケノコはピクルスにしてメニューのカレーに添えたりして、豊かだなあと思いますね。
コーヒー屋だけど、よく加工品を仕込んでいます。この間は、近くの農家のいちごでジャムをつくったし、地元のものを積極的に使っていきたい気持ちがあります。せっかく農作物に恵まれた環境にいるので、ローカルのものをもっともっと使っていきたい。周りの人にもいろいろ声をかけているところです。
そういうことを思えるようになってきたのも、開店から1年以上が経ってちょっと余裕が出てきたからかな。やりたいことがたくさん出てきています。
できることから少しずつ 一歩踏み出す方法はそれぞれ
ーー移住して、店を始める。新しい環境でいいスタートを切るためのアドバイスはありますか。
青山さん:
うーん、そんなに特別なことはしていないんですが……。あ、下見に来ながら、飲食店の人たちに話を聞くことはしましたね。出店する場所の人通りや将来性をみるのはもちろん、近くの居酒屋で食事して「このあたりで店を出したい」と、話してみていましたね。
もちろん、やってみないと分からないこともたくさんあるんだけど、できる準備はしておいた方がいいと思う。自分の構想を日記に書いておく、SNSのアカウントをつくっておく、通信販売のアカウントをつくっておく……なんでもいいと思います。
僕は仙台でやっていたお店のInstagramのアカウントを引き継いでいるので、最初からフォロワーが2000人くらいいて恵まれていたと思います。でも、そこまでいかなくても、フォロワーが0か50人かだって全然違うはず。
通販も僕の実体験で、アカウントだけ作ってあります。まだ実際に販売できてはいないんだけど(笑)。いざやるぞとなったら商品を追加すればいいわけですから、ハードルは着実にひとつ減っている。
実際にお店をやり始めると、次々にやるべきことが来ちゃって詰まっちゃうから、事前に思いついたことは何でもやっておけばいいんじゃないかな。
余白があったからこそ 思いがけない出会いや集客につながった
ーー都市部に比べて家賃が安く抑えられるのが、地方のいいところ。逆に、広すぎるという悩みを聞くことがあります。ロマリアコーヒーも仙台時代よりだいぶ大きいんですよね。
青山さん:
はい。仙台の時は10席で、今は14席。2階もありますしね。最初はちょっと困ったなと思いましたけど、2階をレンタルスペースにしているからこそ知り合える人がいるのは、嬉しい誤算でした。
今使っているコースターも、2階で展示をした方にお願いして作ってもらったんですよ。ステンドグラスもそうだし、プレゼントしていただいたものもいろいろあります。
2階では展示の他にも、ヨガ、占い、ワークショップなど、わりと自由に使ってもらっています。「会議に使いたい」と言われてお貸ししたこともありますよ。利用する方にとっても、階下にコーヒー屋があることでなにかと便利なようだし、2階に来る目的でふらっとコーヒー屋に寄ってくれる人もいるから、ありがたいですね。
ーー南相馬に店を構えてからの収支はいかがですか。
青山さん:
仙台にいたときよりも、売り上げは多いです。スペースが広いから回転もいいのもあるし、テイクアウトが増えたのも好調な理由かなと思います。
車で来て豆を買って「ついでに1杯テイクアウトで」というお客さんがけっこういるのも仙台の店とは違いますね。そういうお客さんのためにも、パッと買えるようなお菓子なんかも並べるようにしています。
広げることより現状維持を 一人店主として背負っていく
ーー今後の目標などはありますか。
青山さん:
ちょうど最近、悩んだりもしていたんですが、結局は継続できればいいかなって。お店をやっているとどうしても、広げていったほうがいいかもしれないという考えがよぎりますが、やっぱり現状維持できるようにがんばりたいです。
効率を考えたら、いろいろやり方はあるんですよ。例えば最近は、モバイルオーダーが増えています。でも、注文をもらうのってお客さんとコミュニケーションを取る一番いいタイミングです。とくにコーヒーは、お客さんが本当に飲みたいと思っているものを聞き出すためにも必要な時間だと考えています。たとえば、酸味っていっても、人によってイメージしている味は違うから、いろいろと話しながら、すり合わせていく。それって、コーヒー屋にとって一番の醍醐味で、歌でいえばサビのパートみたいな感じ(笑)。
そんなふうに考えていたら、新しいことを追いかけすぎずに、順調にお客さんと一緒に歳をとるのが真っ当なのかなと思うようになりました。自分が顔であり続けることでもあるので、ちょっとしんどいな、覚悟しなくちゃなってことも感じています。でも、それが自分が思い描くコーヒー屋のイメージなのだと定まってきました。
そうそう、最近嬉しかったことがあるんです。北海道旅行へ行って常連さんたちにお土産を買って送ったんです。そうしたら、妻に「こんなに送るの」ってびっくりされて。そう言われたときに、あらためて、この1年でこんなに関係性がある人が増えたんだと、しみじみしちゃいました。
そういえば、去年の大晦日の夜はお客さんたちと夜遅くまで店で過ごしていて、「良いお年を」って別れたのも思い出深いです。2〜3年は赤字覚悟だったのが、1年で思いがけないかたちで受け入れられていること、大切な人が増えていることが、なによりありがたいと思っています。
(編集後記)
お客さんと店主の距離感と等しいカウンター越しのインタビューは、とても和やかな雰囲気で進みました。そんな空気を醸し出すのも店主の力だと思います。青山さんがインタビューでも語っていたように、何気なく、なにも語られずさっと出てきたコーヒーは、いつの間にか私の胃袋を温めて空っぽになっていました。率直な気持ちを、包み隠さずお話ししてくれる青山さんだからこそ、周囲の人も応援したり、通ったりしたくなるのでしょう。これからもロマリアコーヒーのファンはじわじわと増えていくに違いありません。
テキスト:小野民/写真:鈴木宇宙
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更新日:2024年11月20日