考古学はなぜ年代がわかるのか?(令和3年8月1日)

みなさんは、博物館などに行ったときに、考古学の学芸員や専門職員から、「この土器はおおよそ6,000年前の土器です」とか、「この刀は6世紀の終わりころにつくられたものです」といった説明を受けたことがあるでしょう。そのときは「なるほど、この土器は6,000年前のものか!」「6世紀の終わりころの刀は、こんな形をしていたのか!」など、さまざまな感想をいだいたことと思います。しかし、心のどこかで「どうして6,000年前の土器だとわかるの?」「本当に6世紀の終わりのころの刀なの?」といった素朴な疑問も湧いてくるでしょう。
今回の「ちょこっと☆ミュージアム」では、考古学の研究者は、なぜ土器や石器などの年代がわかるのかについて説明したいと思います。
考古学では、文字が一般的ではなかった時代の「モノ」を扱います。例外はありますが、遺跡から出土する「モノ」の大部分からは直接、年代や場所などを知ることはできません。では、考古学の研究者は、遺跡から出土した「モノ」からどのように年代を導き出しているのか。その方法を「土器」を例にして解説しましょう。
縄文時代から作られはじめた土器は、現在の私たちが使う食器に至るまで、もっとも生活に密着した代表的な「モノ」のひとつです。時代や地域、そして社会の変化に影響されて、形や文様・大きさ・作り方などが、さまざまに変化するという特徴があります。
まず、考古学の研究者は出土した土器を、詳しく観察することから始めます。遺跡から出土した土器を観察していくと、これまで無秩序にみえた土器のなかに、形や文様・大きさなどの特徴が似かよった土器を認識することができます。この同じ特徴をもつ特徴ごとにまとめる作業を「分類」といいます。
次に、分類された土器の特徴をもとに、古い特徴をもつ土器と、新しい特徴をもつ土器を判別していきます。たとえば、Aの土器はBの土器よりも古い特徴がみられ、Cの土器はBの土器よりも新しい特徴がみられるといった場合、古い順からA→B→Cという新旧関係にあることがわかり、無秩序にあった土器に時間という「基軸」を与えることができます。
このように土器の形や特徴をもとに、土器を時間軸に基づいて配列する作業を「型式学的編年」と呼び、この編年研究は考古学の重要な基礎的研究のひとつとなっています。

さらに編年研究では、分析の対象となる土器が、浅いところで出土したのか、深いところで出土したのかという「層位学」を加味して研究します。安定した地層では、上の地層は下の地層より新しいという「地層累重の法則」に従って堆積しています。つまり、浅いところで出土した土器は、深いところで出土した土器よりも新しいということになります。
土器の編年研究で配列された土器が、地層累重の法則に基づいて出土していれば、編年された土器の新旧関係が、層位学の順序によって裏付けされたことになります。
しかし、ここで注意が必要なのは、編年研究では土器の互いの新旧関係は分かっても、その土器の年代までは知ることはできないという点です。したがって、編年と層位によって配列された土器に年代を与えるには、自然科学分析を用いたアプローチが必要となります。
自然科学分析のもっとも一般的なものに、「火山灰分析」があります。日本列島は火山大国といわれるように、過去から現在にいたるまで、各地で火山が活発に活動しています。火山活動で噴出した火山灰は、偏西風に乗って日本列島の広い範囲に降り積もることから、土中に堆積した火山灰を分析することで、火山灰を供給した火山と噴火の年代を知ることができます。
たとえば、鹿児島県南方の硫黄島と竹島付近にある鬼界カルデラは、今から約7,300年前の縄文時代前期ころに大噴火を起こし、その噴火によって噴出した火山灰は東北地方まで達しました。つまり、東北地方でも鬼界カルデラの火山灰よりも深いところで出土した土器は7,300年前よりも古く、浅いところで出土した土器は7,300年前よりも新しいということになります。
このように、土器の編年研究に自然科学分析で年代の定点が設けられれば、土器編年上の年代を知る手掛かりが得られるばかりではなく、他地域の土器編年との相関関係が分かることになります。
考古学の研究者は、長い研究の歴史のなかで作られてきた編年研究を学び、実践することで、年代をはかる「モノサシ」として編年を用いているのです。今回は、土器を用いて年代を決める方法を説明しましたが、遺跡からは土器以外にも石器・瓦・埴輪・木製品・金属製品などさまざまな「モノ」が出土します。これらについても編年研究が進展しており、各種の編年研究を対比することで、年代や過去の生活・社会の変化などの情報を読み取ることができるようになるのです。
(荒 淑人)

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更新日:2024年04月01日