春を告げるガニマキ(平成29年3月1日)

寒暖差のある気温をくり返しながら、季節はしっかり春への歩みを進めています。通勤の途中、梅が咲いているのを見つけました。
春の訪れを告げるのは視覚だけではありません。味覚にも春がお出ましです。山菜、イチゴ、菜の花、アサリ、サクラエビ、蛤、桜餅、雛あられ・・・・。心おどるような面々が並びます。みなさんは春の味、何を思い浮かべますか?
そんな中、異彩を放つ春の味が南相馬市を含む相双地域に存在します。それは「ガニマキ」なる食べものです。
ガニマキはモクズガニというカニで作られる郷土料理です。モクズガニは日本各地の川に生息しており、ハサミに生えているフサフサの毛が特徴です。秋から冬に川を降りて春に河口近くで産卵します。こうした移動の季節にはたくさんのモクズガニを獲ることができるので、春と秋はガニマキを作る季節でもあるのです。高級食材で名をはせる上海蟹の仲間なので、その味には定評があります。
モクズガニ Erioceir japonica

殻の幅は7~8センチメートル、体重は大きいもので180グラムほど。
日本各地の川に生息し、巻貝や小魚などさまざまなものをを食べている。秋から冬に川を降り、河口や沿岸部に産卵する。
(注意)寄生虫がいるので生食は危険です。

ガニマキの作り方
生きているモクズガニを石臼で潰してザルでこし、水を加えて火にかけます。すると不思議なことにカニの身がふわふわと固まって浮いてきます。味つけは味噌と醤油。お好みで豆腐やネギ、ミツバなどを加えます。カニのエキスが溶け込んだ茶色い液体からふわふわの卵とじのような物体が浮かんで来るのは魔法のようです。
ザルで濾した後、水を加える前の濃度の濃いものを取っておき、それを後から沸騰した鍋に入れると大きなふわふわができます。濃度が濃いほどふわふわは硬くカマボコのように弾力のあるものになります。
さてそのお味はと言いますと、カニ100%の旨みがギュギュッとつまった贅沢な味わいです。
ガニマキは相双地域の中でも作り方に地域性があるのが特徴です。カニを濾した汁の濃度、鍋に入れるタイミングなどで完成形に違いが生じます。しかし、その違いこそが郷土料理らしさでもあると思います。

6は3で濾した時に取っておいた水を加えていない濃度の濃いエキスです。水を加えて薄めたものを火にかけて沸騰してきたら6をスプーンですくって入れます(7、8)。7はカニの身が固まってふわふわと浮いてきている状態です。
現在もガニマキを作る方は皆さん専用の石臼や杵をお持ちです。カニを潰しやすいように自作で工夫された道具からはガニマキという料理の大切さが感じられました。

完成したガニマキ




実はこの「ガニマキ」、相双地域だけでなくモクズガニのとれる日本各地で似たような郷土料理が存在するのです。現在把握している限りでは、東北、関東、中部、四国、九州、沖縄などの各地にガニマキの兄弟のような料理があって、その地域独自の食べ方として認識されています。
完成までにとても手間がかかるのでガニマキを作る家庭は少なくなっていましたが、さらに原発事故の影響がそれに拍車をかけました。放射能汚染のため、すぐそこにいるカニをとって食べるという行為自体ができなくなってしまったからです。
当館ではガニマキを作れる方にご協力いただき、実際に作っている様子を取材させていただきました。そして完成したガニマキを型にしてレプリカも作製しました。このレプリカは現在エントランスホールにて展示中です。エントランスホールは入館料がかかりませんので、お近くにいらした際はぜひお気軽にお立ち寄りください。
(川崎 悠)

(は)


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更新日:2024年04月01日