「納豆ねせ」の日(令和3年12月1日)

12月25日は何の日?
みなさんにとって12月25日は何の日でしょうか。
おそらくこの日付で真っ先に思い浮かべるのは「クリスマス」でしょう。12月25日がやってくるひと月以上前から、街中がクリスマス一色になるほど世の中に浸透している日なのですから、そう思うのは当然といえます。
ところが、今から50~60年くらい前までの12月25日は、「納豆ねせ」の日でもありました。「納豆ねせ」の日とは、納豆を作る日のことです。
昔は、納豆といえば買うものではなく作るもので、相双地域に限らず、東北地方やその他の納豆を食べる地域で広く行なわれていた年中行事のひとつでした。
この時期に納豆を作るのは、第一に納豆作りに必要な藁の収穫が完了していること、それから、お正月や冬期の保存食として仕込むのにちょうど良い時期であることなどが考えられます。
「納豆ねせ」の方法
では、自家製の納豆はどうやって作るのか。相双地域の作り方を例にご紹介します。
まず、ひと晩水に浸しておいた大豆を柔らかくなるまで鍋で煮ます。指で豆が潰れるくらいの柔らかさになるまで半日以上かけて煮るので、朝から始めて夕方までかかったそうです。
次に、藁で作った藁苞に茹でた大豆を入れ、それをさらに筵や稲藁などで包みます。畑に穴を掘って、その中で火を焚いて穴の中を暖め、その穴の中に大豆を包んだ藁苞を入れ、さらに筵や土をかぶせて4、5日程度寝かせておくと納豆ができました。反対に土中に寝かせたその上で火を焚いて暖める方法もありました。
また、土中ではなく、家の中で温度を保って寝かせておく場合もありました。いずれにせよ、寝かせるときの温度加減が納豆の出来栄えを左右したようです。
このように毎年12月25日には、お正月の神さまへのお供え用と、お正月中家族で食べる分の納豆を作っていました。
手作り納豆を食べていた人の感想をご紹介します。
- うまく糸を引くときと引かないときがあったけれど、それでも大事なおかずとして食べた。
- 今の納豆みたいに糸を引く納豆ではなかったけど、満足して食べていた。納豆屋で買ったものよりおいしかった。
- 醤油なんて普段買わなかったから、カテとして必ず酸っぱくなった白菜の漬物を刻んで入れて食べた。それでも昔はごちそうだった。
など、納豆が当時貴重な食べものだったことが分かります。
納豆ねせに挑戦!
手作り納豆ってどんな味がするんだろう?
この疑問を解決すべく、納豆ねせに挑戦してみました。作り方は昔ながらのやり方とだいたい同じです。

1. 大豆(60グラム)をひと晩水に浸しておく。[画像①、②]
2. 蒸し器で大豆を1時間程度蒸す。[画像③、④]
茹でても良いのですが、薄皮が取れやすいとの情報があり蒸すことにしました。指で潰れるくらいまで柔らかくなるよう、様子を見ながら蒸します。
3. 藁苞を熱湯で消毒する。[画像⑤、⑥]
沸騰した鍋に約1分ほど藁苞を入れます。藁に付着する納豆菌は熱湯では死滅しません。
4. 藁苞に大豆を詰めて輪ゴムで端をとめる。[画像⑦、⑧]
5. 新聞紙、ビニール袋などで包み、約40度になるようカイロを入れて発泡スチロール箱へ入れて寝かせる(糸が引くまで寝かせる)。[画像⑨]
温度を保つために途中何度かカイロを足しました(ヨーグルトメーカーなど温度設定できるものを利用しても可)。
6. 糸が引く状態になったら、冷蔵庫へ入れて発酵を止め、数日熟成させます。[画像⑩、⑪]
1日半ほど寝かせると糸を引いたので、それから2日ほど冷蔵庫で熟成させました。
7. 完成。納豆のできあがり。[画像⑫]

藁苞の中で発酵した大豆

糸を引いた大豆
発酵がうまくいくか不安でしたが、ちゃんとネバネバ糸を引いてくれました。熟成も完了し、いざ実食です。
納豆の匂いはしますが、納豆よりも藁の匂いを強く感じました。両者の香りが混じり合い、嗅ぎ慣れない納豆の匂いがしました。藁苞に入った市販の納豆は、食べたことがあったのですが、その時のものより藁の香りが強い気がしました。
食べてみると、少し固いものもありましたが、しっかりと納豆の味がしました。お醤油をかけて食べてみたら、食べやすくなりました。正真正銘の納豆です。納豆ねせは成功ということで良いでしょう。
反省点としては、蒸すのに時間がかかったわりに固い豆があったこと。薄皮は取れやすくなりますが、蒸すより茹でたほうが良さそうです。
「納豆ねせ」は、かつて新しい年を迎えるための大切な行事のひとつでした。手間のかかる仕事ではありますが、その分味わい深いものだったことでしょう。
藁の入手は難しいところですが、通販で購入することも可能です。今年の年末には納豆を仕込んで、お正月に食べてみませんか。
(川崎 悠)

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更新日:2024年04月01日