ワラのおはなし(令和元年10月1日)

秋といえば収穫の季節。とくに10月は稲刈りで忙しい月ですね。今回はお米の収穫にちなんで、稲とワラにまつわるお話をしたいと思います。
お米の収穫から出荷までには、稲刈り、脱穀、乾燥、もみすり、袋詰めなどたくさんの仕事があります。かつては大変な仕事でしたが、現代では優れた機械のおかげで生産者の労力は軽減され、収量も上がりました。
収穫の過程で欠かせない乾燥ですが、今はコンバインですぐ脱穀して、籾を乾燥機にかけることが一般的です。機械乾燥が普及する前、この地方では田んぼに木や竹の棒を渡して束ねた稲を逆さにつるし、数週間かけて乾燥させました。この作業は「ハセガケ」あるいは「キガケ」とよばれています。一段で干すこともあれば、干す面積の関係などで二段にして干すこともあるようです。

ハセガケ(平成12年・原町区)
稲の品種改良などによって、昔に比べて稲の栽培時期が全体的に早くなりました。50年ほど前までは、田植えが6月、稲刈りが11月というのが一般的でした。その時代はハセガケの道具を片付けるころに霜が降りたり雪が降ったりすることもあったそうです。 震災前からかなり少なくなっていた稲の天日乾燥ですが、比較的よく見かけられた使われなくなったハセガケに使う道具を保管する小屋(ホソギゴヤなどと言います)さえも、8年前の地震による倒壊や除染などにより取り壊され、一層見かけられなくなりました。
新米のおいしさは格別ですよね。残念ながら私は天日乾燥のお米を食べたことがありませんが、食べ比べたことがある方の中には、天日で乾燥させたお米の方がおいしいと感じる方もいるようです。機会があれば食べてみたいものです。
さて、お米の副産物であるワラですが、今ではコンバインで稲を刈る時に細かくされ、田んぼにすきこんで肥料にするか、廃棄物とされることが多くなりあまり注目されていません。しかし、昔は縄をはじめとした生活道具、家畜の敷物やえさ、コメを入れる米俵に至るまで、日常的に幅広くワラが利用されていました。もちろん博物館にも、ワラで作られた道具が収蔵・展示されています。
では現代で長いワラの利用方法がなくなったのかというと、そんなことはありません。神社のしめ縄やお正月飾りなどの信仰や習俗関係、身近なものでは畳、この地方ならではのものとして相馬野馬追で武者のワラジや野馬懸で使う諸道具などにワラが使われています。あまり知られていないところでは、弓道の日々の稽古で使う巻藁があります。これは遠い的でなく近距離の藁束に矢を射ることで、体を慣らしたり、型を確認したりすることに使います。
これらに使うワラは、長い状態をあえて残します。長いワラは手に入りにくいので、販売する業者も多く存在します。年末にかけてお店で正月飾りなどを見かけることが増えると思います。もし見かけたら、昔ながらの収穫風景を思い起こしてみるのもいいかもしれませんね。

南相馬市弓道場にある巻藁
(板倉 世典)

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更新日:2024年04月01日