お浜下り(令和4年6月1日)

「お浜下り」は「おはまおり」「おはまくだり」「おさがり」などと呼ばれ、東日本の太平洋岸に多くみられる民俗行事です。神輿や厨子に御神体や御本尊を載せた祭礼の行列が地域を巡り、海岸で祈祷や神仏自身が潮垢離することで神仏の霊力を再生させて、社寺に戻ってくる行事です。行列には神楽・手踊・宝財踊・万作踊など各種の民俗芸能を伴う例も多く、祭りに華を添えます。
1997年の福島県立博物館の調査では、浜通り地方でお浜下りを実施している例と廃絶した例を含めて123例が報告されています。うち、いわき市では69例、南相馬市では23例を数えます。祭日をみると、いわき市では毎年、南相馬市では12年に1度の決まった干支の年に行う例が多く、周期性がみられます。また、お浜下りをする神社やお寺には、御神体や仏像が海から漂着したという伝承もあり、神仏が海岸に下るという行為には、海辺の聖地に帰るという意識があったようです。
このように浜通り地方にはお浜下りが多くみられましたが、社会の変化や東日本大震災の津波・原発事故による急激な人口減少などにより、行事の維持・伝承が難しくなっています。このため、国は2020年3月16日に「浜通りのお浜下り」を記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択し、記録作成とともに行事の維持継承を図っています。これを受けて、福島県と浜通りの市町村では、今年度から「浜通りのお浜下り」の調査・記録作成事業をスタートさせました。

「虚空蔵尊のお浜下り」
御本尊に潮水を供える
2022年3月26日 鹿島区 南海老海岸
次に、南相馬市での近年の例を紹介します。鹿島区北海老の「虚空蔵尊のお浜下り」は、本来は丑年の2021年に執り行われる予定でしたが、コロナ禍の影響で1年延期して今年3月に執行されました。宝蔵寺の虚空蔵堂で御本尊を厨子に納め、北海老・南海老を巡って南海老海岸に下り、地区内の安寧を祈りました。祭礼は密を避けて役員のみの参加で、残念ながら民俗芸能の奉納も省略されましたが、南海老区長が海から潮水を汲み、浜に設けられた祭壇で御本尊に潮水を供えました。

「下町子供手踊」
鹿島御子神社などの祭礼に奉納される
2014年4月21日 鹿島区 鹿島御子神社
「鹿島御子神社のお浜下り」は、本来は寅年の今年行う予定でしたが、3月の震度6強の地震で神社が被害を受けた影響で、2023年4月に延期されました。来年こそは災害のない年になって、お浜下りや民俗芸能が滞りなく執り行われることを切に願います。
(二本松 文雄)

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更新日:2024年04月01日