よくある野馬追の質問「神旗争奪戦では何かいただけるんですか?」(令和3年6月1日)

迫力の「神旗争奪戦」。念願の神旗を獲得した騎馬武者は、何かいただけるんですか?という質問がよくあります。
相馬野馬追の人気行事といえば、やはり「神旗争奪戦」ですね。花火で上空に打ち上げられ、舞い下りてくる神旗を獲得するため、騎馬武者たちが一斉に群がる光景はとても勇壮です。武者たちの多くは、年に一度、この舞台で神旗を獲得することに情熱を燃やし、日々の鍛錬に励んでいます。
さて、博物館の展示コーナーにも、その神旗争奪戦のジオラマがありますが、来館者をご案内していると、よく聞かれるのが「神旗を獲得した方は、賞品などいただけるんですか?」という質問。なるほど、あまり取り上げられることがない話題ですし、素朴に気になる疑問のようです。
結論から言うと“いただけます”。今回はそのあたりを少し紹介してみましょう。
そもそも「神旗」とは・・・?

三社の神旗
神旗は、野馬追で中心的な役割を果たす、相馬三社(相馬太田神社・相馬小高神社・相馬中村神社)の社号が書かれた、横35センチメートル・長さ150センチメートルほどの布で、太田神社が赤・小高神社が黄・中村神社が青と色分けされています。行事では、花火の玉の中に神旗が詰められて打ち上げられます。
以前は花火の玉の中に神旗が2本ずつ詰められ、合計40本が時間差で打ち上げられていましたが、令和5年(2023)からは、初めの1発に1本、その後は2本ずつ詰められ15発、合計16発・36本の神旗が打ち上げられています。
野馬追は数百年もの伝統を誇りますが、神旗争奪戦が始まったのは明治時代のことで、長い歴史の中では、比較的新しい行事です。江戸時代までは、「野馬追」という名の通り、馬牧の中にいた「野馬」を騎馬武者が「追う」行事でした。しかし、明治時代に牧が廃止され、野馬が捕獲・公売されてしまったため、「野馬追」ができなくなり、その後に始まったのが「神旗争奪戦」です(明治16年[1883]には行われていた記録があります)。
つまり神旗とは、かつて騎馬武者が追いかけていた“野馬に代わるもの”とご理解ください。
神旗争奪戦でいただけるもの

本陣山で、獲得した赤い神旗(相馬太田神社の神旗)を納めるところ。騎馬武者(右)から軍者(左:野馬追の幹部)に神旗を手渡します。
さて本題です。神旗を勝ち取った武者は、それを片手に、観衆の拍手喝采を浴びながら、本陣山を駆け上がります。神輿が安置され、総大将が待つ山頂に着くと、獲得の報告とともに神旗を納め、以下の褒賞を受け取ります。
①神社の御札
獲得した神旗に記された社号に応じた神社の御札。たとえば、赤い神旗(太田神社の旗)を獲得したら、太田神社の御札をいただきます。
②神旗のレプリカ
獲得した神旗と同じ仕様のレプリカ。獲得した神旗は、本陣山で納める習わしなので、実物はいただけません。しかし「神旗そのものが欲しい」という武者たちの声もあり、近年、レプリカを贈呈するようになりました。
③副賞
地元企業・商店等のスポンサーから提供された品々。ちなみに令和元年度(2019)、もっとも名誉とされる“一番旗”を獲得した武者への副賞は、「商品券(3万円分)、工業用扇風機、みそ汁&たまごスープのもと、日本酒2本、洗剤セット、ワンショルダーバッグ、オイルギフト、ミニ傘、キッチンペーパー、煎餅(合計:6万3900円分相当)」でした(情報提供:相馬野馬追執行委員会)。年ごとに内容は変わるようです。
副賞もいろいろ―「昔はカツオとかスイカ、馬にぶら下げて帰ってたよ」
神旗を獲得した騎馬武者。拍手喝采を浴びながら、誇らしげに本陣山を駈け上ります。副賞もいただけますが、神旗獲得の高揚感と名誉のほうが嬉しいそうです。
副賞も時代によってさまざまです。ベテラン騎馬武者に聞いてみると、「昭和中頃以前は、魚屋でカツオ1本とか、八百屋でスイカ丸ごと1個とかあったね。神旗に副賞引換券が付いてて、野馬追帰りに馬に乗ったまま、その券を持って商店街に寄って、賞品と交換して、馬の鞍にカツオとかスイカ結い付けて、ぶら下げて帰るんだよ(笑)」という、何とも味のある光景だったそう。神旗を何本も獲得した武者にいたっては、たくさんの副賞を持ち帰るために、後ろにリヤカーや軽トラックを従えて、商店街で交換した賞品を次つぎに積みあげながら、悠々と馬に乗って帰宅し、余分な副賞をご近所さんに振る舞ったりしたそうです。
ちなみに、現存する昭和54年(1979)の副賞一覧表を見ると、一番旗の副賞は「金一封(2口)、カット生地、プレスハム、炭酸飲料2種、ウイスキー、清酒、ワイン、洗剤、粉石けん、メモスタンド」とあります。金一封が2口…おいくらほど包まれていたんでしょうね。 副賞はあくまでも副賞、もらって嬉しいものではありますが、参加している騎馬武者の皆さんは、副賞が欲しいわけではなく、神旗を獲得したときの高揚感と名誉が一番嬉しいそうです。普段は一般人として過ごす方たちも、この日ばかりは“武士”になりきって参加しています。神旗獲得は、1年間の鍛錬が報われる瞬間であるとともに、武士として手柄を立てた、ということなんですね。
(二上 文彦)

関連ページ
- この記事に関するお問い合わせ先
- このページに関するアンケート
-
より良いウェブサイトにするために、このページのご感想をお聞かせください。
更新日:2024年04月01日