自然を切り取り 時間を止める(平成27年12月4日)

なにやら変なテーマだなと思ってページを開いていただいた方、どうもありがとうございます。今回は博物館で取り組んでいる体験学習と、博物館の資料について少しだけご紹介したいと思います。
南相馬市博物館で平成27年に行われた体験学習では、南相馬で見られる身近な植物を集めてきて、透明なプラスチック樹脂で封じ込め、ペンダント型の封入標本を作るという試みを実施しました。
この体験学習で使用した植物のうちのいくつかを以下にお見せします。

ミズアオイ

ミズアオイ
採集場所:南相馬市原町区北泉
採集日:2015年9月20日

ミヤコグサ

ミヤコグサ
採集場所:南相馬市鹿島区北海老
採集日:2015年5月31日

イロハモミジ

エゴノキ
気づかれた方がいると思いますが、ペンダントや押し葉標本にはその植物が採集された場所と日付が記入されています。
たとえば、ミヤコグサは鹿島区北海老の群落から2015年5月31日に採集されたものであるということです。
実はこの花を採った場所と時間が記録されていることが、とても大切なことなのです。押し花を作ったことがある人でも、作った日付や場所までメモすることはあまりないと思います。また、メモがあっても押し花とバラバラになって分からなくなってしまうこともあるでしょう。人の記憶というのはとても頼りなくて、一年もすると忘れてしまったり、別のことと取り違えてしまうことがよくあります。そういう時に押し花本体と採集情報が一緒であることが大事になってきます。
何年後かにペンダントのことを思い出したら、ペンダントを持って記録された場所と季節にそこを訪れ、中身の植物を探してみてほしいと思います。封じ込めた植物がまた咲いているか、ぜひ確認しに行ってみてください。
また、どうしてもペンダントの中の植物が見つけられないときは、博物館へお問い合わせください。それでも見つからないときはきっとその場所の自然が変わってしまったのだと考えてよいでしょう。
ところで皆さんは「押し葉標本(おしばひょうほん)」というものを知っていますか?
ペンダントに入れた植物の全体像として見ていただいたものが博物館にある押し葉標本です。
押し葉標本は、野生の植物を押し葉にして乾燥させ、保存性を高めたものです。その植物を採った場所と日付などの情報があわせて記録されています。
標本があることで、将来もしもその場所の自然が変わってしまったり、消えてなくなってしまっても、後からそこにどんな自然があったのか調べることができるわけです。またそれらは、地域の自然を理解したり活用する際の大切な情報源にもなります。
標本を作ることは自然を切り取り、時間を止めることだといえるでしょう。

ワレモコウの標本
(野馬追祭場地、2015年6月24日採集)
大きな大学や博物館には100万点を超える数の世界中の押し葉標本が保存されています。
福島県の押し葉標本がもっともよく集められているのは福島大学の生物標本室で、約6万点の押し葉標本が保存されています。
南相馬市博物館でも少しずつですが押し葉標本を集めています。
さて、博物館には大切な役割として、標本も含めた資料を一般に知っていただくということがあります。図書館の本のように標本も市民の方に自由に手に取っていただいたり、貸し出したりできたらいいかもしれませんが、少なくとも植物の押し葉標本ではそれが難しいいくつかの理由があります。
理由1「もろい」
押し葉標本は乾燥していて薄い部分が多く、力を入れなくても簡単にパリパリと壊れてしまいます。博物館の標本を、誰でもいつでも見たり触ったりできればよいのですが、半永久的に保存するのが前提のものですから、とても悩ましい問題です。
理由2「湿気に弱い」
基本的に乾燥した状態の押し葉標本ですが、ジメジメした環境に長く置くとカビが生えるおそれがあります。当然ですが水にぬれることなどはもってのほかです。
理由3「虫に食べられる」
乾燥した葉っぱはとても食べられないように思えるのですが、生き物とはすごいもので、それが大好きな昆虫がいます。押し葉標本につく主な害虫はシバンムシの仲間で、花の部分などの美味しそうな部分を食べてあっという間にボロボロにしてしまいます。
おもにこれらの理由から、博物館では展示で使用する場合などをのぞき、標本は収蔵庫で保管し、市民の方には公開していません。一方で標本は市民の財産でもありますから、できるだけ本物を手に取って見てほしいという思いもあります。
実はこうした葛藤から生まれたのがはじめにご紹介した体験学習です。
プラスチック樹脂に封じ込めることによって触っても壊れませんし、水にぬれても大丈夫です。虫が食べに来ることはまずありえません。また、小さなサイズにしたので身に着けて持ち運べるようになりました。南相馬市博物館にある押し葉標本のサイズはタテ45センチメートル・ヨコ30センチメートルですから、これはとても大きな違いです。
封入標本作りを通して、普段は目にできない博物館の標本のことと、私たちの町の自然をより身近に感じていただけたらいいなと思います。
ペンダントを作った皆さんは無くさないようにしてくださいね!
(仲川 邦広)


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更新日:2024年04月01日