博物館とレプリカ(令和元年5月1日)

博物館にはさまざまな資料が展示されています。普段の生活の中ではめったにお目にかかれないモノに出会えるのが、博物館の最大の魅力の一つと言えるでしょう。
皆さんは、資料の展示の仕方に2種類があることに気が付いているでしょうか。
一つは、実物をそのまま展示するもの。もう一つは、実物そっくりに作られたレプリカを展示するものです。
実物があるなら実物を展示した方がいいのに、どうしてわざわざレプリカを作って展示しちゃうの??こんな疑問が頭に浮かんだ人もきっといるはずです。では、いったいどうしてレプリカを作って展示するのでしょうか。
レプリカってどんなもの?
博物館には、資料を収集・保存・調査する役割の他に、資料を展示公開するという役割があります。しかし、資料の良好な状態を保持するには、劣化や破損の原因となる、多くの資料の天敵である光や湿気からの影響を最小限にすることが大切です。そのためには、展示せず、外気にさらさず、光を当てず、適切に温湿度管理された収蔵庫に保存しておくのが一番の対策です。つまり、博物館の役割である資料の展示公開こそが、資料の劣化を加速させる原因となるのです。
しかしどんなに歴史的価値がある資料でも、多くの人々に知ってもらわなければ、その価値は埋もれたまま失われてしまいます。
そこで登場するのが本物そっくりに作られた「レプリカ」です。レプリカだったら自由に持ち運びができて、明るい照明を当てて展示することもできて、さらに直接触れてもらうことも可能になります。レプリカは、博物館が抱えるジレンマを解消してくれる救世主なのです。
レプリカって何が良いの?
「レプリカ(replica)」とは「複製品・模写・写し」という意味の外来語です。
南相馬市博物館でも多くのレプリカを所蔵しています。そして、それぞれの専門分野でレプリカを作る意義があります。
化石のレプリカ

恐竜の足跡化石の発掘現場 写真提供:平宗雄氏

足跡化石のレプリカ(当館像)
左写真の発掘現場を型取りして製作
恐竜の足跡化石のように、発掘現場から移動させることが難しいものは、現場の状態をそのまま型取りしてレプリカを作ります。そうすることで足跡の様子を詳しく研究し、展示もできるようになります。
また、本物の化石である実物標本は大変貴重なので、直接触って破損等させないためにレプリカを作り、そのレプリカを研究対象とすることはよくある方法です。化石の形を調査するにはレプリカが十分な調査資料となります。
レプリカの利点は研究に限ったことではありません。実物だと展示資料に触ることはなかなか難しいのですが、レプリカにすることで「さわれる展示」が実現することもあります。
植物のレプリカ
植物を乾燥させて押し葉標本にすると失われてしまいますが、植物のレプリカは、生きているときの瑞々しい姿や形、鮮やかな色彩などを表現できます。しかし、DNAや顕微鏡レベルの小さな特徴は再現できないので、レプリカそのものを研究材料にすることはできません。資料の持つ情報量という点では、押し葉標本にはかなわないと言うことになります。
料理のレプリカ
当館では郷土料理の調査を行っています。地域の食文化を記録し、伝えていくのはとても大切なことですが、文章や写真だけだとちょっと分かりにくい時がありませんか?分かりやすく、イメージしやすくするには、レプリカが効果的です。初めて目にする料理でも、それがどんなものであるのか理解しやすくなります。
料理はナマモノ。展示することは現実的に難しく、仮に展示できたとしても、ベストな状態を長時間保つのは不可能に近いでしょう。
下の写真は本物とレプリカの納豆餅です。どちらが本物か分かりますか?


本物はどっち???
正解は・・・右の写真が本物です!!
こうして並べると、どちらもそれらしく見えます。強いて言うなら、納豆の粘りの白濁したふんわり加減、ネギのフレッシュさ等に多少違いがあるでしょうか。しかし、一つずつ見たらなかなか分からないと思いませんか?左のレプリカ、ちゃんと糸を引いています。とても素晴らしい仕上がりで、何より美味しそうです。
このようにレプリカには、本物ほどの資料情報がない場合もありますが、本物では実現できないことが可能になるという大きなメリットがあります。レプリカを作ることは、博物館の役割、可能性を広げることに繋がっています。
現在、南相馬市博物館常設展示室のミニテーマコーナーでは、「本物そっくり!?博物館のレプリカ」を開催中です。化石、動植物、郷土料理の3分野のレプリカを展示し、博物館がレプリカを製作・展示する理由を解説しています。本物と何が違うのか、それとも本物と変わらないのか、実際にご覧になって確かめていただければと思います。
(川崎 悠)

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更新日:2024年04月01日